「よこはま高度実装技術コンソーシアム実装技術セミナーの今日までの歩みと今後の進め方」
YJC 顧問 本多 進
1.よこはま高度実装技術コンソーシアム誕生の夜明け前(2002年~2005年)
よこはま高度実装技術コンソーシアム(以下YJC)の設立は2006年7月ですが、実は設立前に約3年半ほど準備期間がありました。
2002年当時、横浜国立大学で実装技術関係の研究開発をされており、エレクトロニクス実装学会(以下JIEP)で活躍しておられた友井先生、多田先生、白鳥先生、于先生などとJIEP会員の企業OB数名とを中心に「実装技術研究会」を設立したのが始まりです。
その後、数回の話し合いの結果、産学連携を目標とした基盤づくりとして、大学と企業間のオープンな情報交換の場を提供するために「実装技術懇談会」を開催することにしました。
2003年1月にはセミナー形式の第1回実装技術懇談会を開催しました。この懇談会では講演会終了後に、実装技術関連の先生方と企業技術者との意見交換の場として「技術交流会」を実施することにしました。
実装技術の産学双方の勉強会のため、先生方からのシーズの提案や実装技術の幅広い動向、問題点等を相互に紹介し、討議することでスタートしました。
参加者へのアンケート結果では、かなり満足度の高い意見が出されたため、2003年には実に7回実施し、翌2004年からは「実装技術研究会」と改称し、JIEP先進実装技術研究会、NPO法人サーキットネットワークとの共催も得て、YJC発足直前の2006年3月までに9回実施し、計16回の実績となりました。
この間、講演会、技術交流会を行うだけでなく、実装技術に関連する大学研究室の先生方や学生によるオリジナルな研究発表のポスター展示や、研究室見学会なども合わせて実施し、企業技術者に好評でした。
この間、2005年には大学の実装技術関連の研究者の集まりである「よこはま実装研究クラブ(JRC)」が結成され、横浜国立大学以外の近隣大学の先生方にも加わって頂き、図1左下のように、40名近いメンバーで発足しました。このメンバーの中には企業サイドの実装技術の問題点を十分には理解しておられない先生方もおられたため、毎週一人ずつ夕方、先生に来て頂いて、実装技術の直面する課題や問題点などについて十数人の先生方と話し合いをしたのはこの頃です。
この前後から、JRC設立の主要メンバー(図1右上記載のJRC世話人友井、羽深、羽路、于各先生)と多田先生、白鳥先生とYUVEC、企業OB、さらに神奈川県産業技術センター、KAST、ベンチャー支援機構のNPO法人TSUNAMIにもご参加頂いて、YJC設立構想の話し合いをスタートさせ、YUVECに拠点を置いて進めることで一致しました。図1の下段部分がその推進体制を示した図です。
この合意に基づいて2005年11月にセミナーとは別の実装技術シンポジウムを横浜国立大学内の教育文化センターにて開催し、会場一杯の参加者を得て、セミナーとポスターセッションを実施しました。
その中で、当方が「実装技術の狙うべき方向と技術課題」と題して実装技術の重要性に関する基調講演をさせて頂き、その席上でYUVEC合志常務理事が「よこはま高度実装技術コンソーシアム(YJC)構想の紹介」と題してYJCの設立構想を初めて発表しました。
ポスターセッションでは横浜国立大学と近隣大学の研究者を中心に34テーマのポスター展示と簡単なプレゼンテーションがあり、活発な討議がおこなわれました。
続く2006年3月の第16回実装技術研究会セミナーでは、同様のYJC設立構想を羽深先生が報告され、その時がまさにYJCの夜明け直前でした。
2.YJC設立とその後のセミナー活動の推移(2006年以降)
かくして諸準備が整って、2006年7月4日に神奈川県民ホールにてYJCの創立記念シンポジウムを開催する運びになりました。このシンポジウムには松沢神奈川県知事(当時)も来賓挨拶に駆けつけて下さり、神奈川R&D構想にも一致するとの激励のご挨拶を頂き、400名近い参加者を得てYJCがスタートしました。この状況はテレビ神奈川でも放映されました。
さて、「産業界のニーズと大学のシーズを融合して、新たなイノベーションの創生」(白鳥理事長)を掲げてスタートした本コンソーシアムは、設立当初、次の3本の柱を中心に活動に入りました。①情報提供・広報活動、②実装技術者育成、③産学共同先端実装技術研究であり、具体的には、①は実装技術セミナーの推進、②はJISSOスクールの推進で、これらは直ちに活動に入り、③は少し遅れて、産学でパワーエレクトロニクス関係の実装材料研究を推進するKAMOMEプロジェクトを結成してスタートさせ、それぞれの活動に入りました。
さて、①のセミナー活動は、YJC発足後、名称を「YJC実装技術セミナー」に変更してスタートしました。YJC発足
直後の2006年9月に開催したセミナーは、上述の「実装技術
懇談会」、「実装技術研究会」セミナーを引き継ぐ形で開催したため、第17回となり、以降、その継続で現在に至っていす。本セミナーの事務局はYUVEC鷹野理事が担当し、先生や、公的研究所(神奈川産総研、KASTほか)、企業技術者など多くの方々に支えられながら、直近の2016年6月開催のセミナーは第43回を数えるに至りました。この間のご協力に感謝致します。
本セミナーは、学会や民間の技術セミナーと違って、大学と企業との共同で企画し、開催するセミナーですので、それを有効に生かして、特徴を出していく必要があります。そこで、本セミナーでは、大学側の研究内容の紹介、企業技術・商品紹介、先進実装技術動向紹介の3本の柱で構成しています。セミナー後の技術交流会も含めて、先生方と企業技術者、あるいは企業技術者同士のコンタクトの場を提供し、その中から産学共同開発テーマや企業間の新規事業推進につながることを期待して進めてきています。YJCの発足当初、実装業界が必要とするニーズを先生方のシーズに繋げるように、クローズドでの話し合いの場を設けたこともあり、今後とも産学共同研究開発に役立つ動きを模索し、実行につなげたいと関係者間で相談しています。また、セミナーとは別に、先生方と企業技術者の方々が気軽に対話できるサロン的な場も設けてはどうかと話し合っていますので、ご要望をお聞かせ下さい。
3.YJC実装技術セミナーのテーマ、キーワードから実装技術変遷の姿を探る
上述のように、YJCの発足より3年半ほど前に遡って実装技術セミナーをスタートさせましたので、この約14年間の実装技術の変遷をセミナーのテーマやキーワードから探ってみることにします。
第1回実装技術懇談会セミナーを開催した2003年当時は、1990年代に立ち上がった携帯電話がスマートホン(以下スマホ)に変わって急伸しつつある頃でした。実装面での画期的な動きは、ICチップのワイヤボンディング方式による3次元実装がスマホの大容量メモリに製品化され始め、先端技術ではSiに貫通ビアを形成したTSV型3次元実装構造のパッケージ開発が進んできたことです。チップ部品は1005サイズが主流でしたが、0603、0402も製品化され、先端では0201の開発も進み、これら微小チップ部品の高精度・高速実装技術に関心が集まった時代でした。
一方、電子機器の高速、高周波化が進み、配線板では低誘電率・低損失有機材料の論議が盛んになり、多層構造での配線長の短縮化を狙って、全層IVHの一括プレス積層法や、50μmをきるファインパターン形成ではレーザーによるダイレクトイメージング技術やマイクロビア形成技術がセミナーテーマになった時代です。
ICチップのワイヤレス実装の話題も増加してきました。これらと併行して、マイクロ接続部の実装信頼性問題なども論じられています。
樹脂系多層基板への部品内蔵方式の進展も著しく、薄型チップ部品では、Siベースの50μm厚の薄膜チップ部品が登場し、さらにコンデンサを基板内に直接形成する薄膜誘電体材料開発のほか、ICチップの内蔵技術も重要テーマとして上がってきています。これらに関連して、チップ・パッケージ・ボード間の協調設計技術も重要テーマになってきています。
しかしこの時代の実装技術関係における最重要テーマは環境対応問題で、2006年7月に施行されたEUのRoHS指令中のPbとハロゲン系難燃剤規制の対応でした。PbフリーはんだではSn-Ag-Cu系はんだの融点上昇問題や、Pbリッチ高融点はんだの代替材料開発の必要性、Zn、Biなどを使用した低融点はんだの接続信頼性対策などが重要テーマとして登場し、現在でも一部で検討が続いています。さらにソルダレス接続技術の検討も盛んになり、導電性接着剤接続の話題が活発化してきています。ハロゲン系難燃剤規制では、樹脂系配線板のBr系からP系への移行が重要テーマとして議論されています。これらの環境対応実装技術に関連して、世界の環境法令や環境規制動向が注目テーマになってきています。
2010年に入ると、車載用や電源用のパワーエレクトロニクス実装関係が重要テーマになってきました。放熱・耐熱性の材料や構造に関する議論、熱設計支援ツールやパワーモジュール試験装置などのテーマが活発化してきました。これはYJC内でのKAMOMEプロジェクト活動が本格化してきたことにもよると考えられます。
さらに2012年に入ると、IC チップの2D、2.5D,3D実装関係や、FO・WLP、3次元実装対応パッケージ基材などに関する議論が盛んになってきました。
2013年6月のセミナーは、3.11東日本大震災後で、配線板企業や大学が多大な被害を受けたため、急遽テーマを変更して実施しました。福島第一原発事故で考えること、地震解析技術、メイコー宮城工場復興の道程、東北大学研究施設の被害と教訓といった内容でプレゼンテーションして頂き、日頃の準備の必要性など、反省を含めて議論し、貴重なセミナーとなりました。
さて、2014年以降は、やはりパワーエレクトロニクス関連のテーマが多くありますが、最近では、IoT,M2M,トリリオン・センサなどの話題や、プリンタブル、ウエアラブル用ナノインク、3Dプリンタを活用したものづくりなど、新たなテーマが増加し始め、実装技術開発の方向が変化しつつある状況がうかがえます。
以上、YJC実装技術セミナーのテーマ、キーワードから探った実装技術変遷の動きを述べてきましたが、10年余の短いスパンでも実装技術関係の開発方向が大きく変わりつつある状況を汲み取ることができ、これらに応える開発体制の必要性が読み取れます。今後ともこうした研究開発や新事業推進に役立つテーマを中心に進めていきたいと考えています。ご意見とご協力のほどをお願い致します。