『KAMOME事業』
「YJC創立10周年を振り返って」
横浜国立大学 客員教授
高橋 昭雄
SiC等大電流パワーモジュール用実装材料評価支援PJ、通称KAMOME-PJについて紹介させて戴きます。本プロジェクトは、YJCの全面的な協力のもと20社を超える企業の参加を得て、横浜国立大学、神奈川県産業技術センター、神奈川科学アカデミーとの連携により推進されている産学官プロジェクトであり、2016年でIII期に亘る6年目を迎えております。低炭素社会実現のため炭酸ガス削減技術のキーデバイスであるパワーデバイスは、現用されているシリコン(Si)に加えて、更に高効率で高性能のシリコンカーバイト(SiC)の適用が予想されております。大電圧及び高温下で動作可能なSiCパワーモジュール用実装材料の開発は各メーカーで行われていますが、そのモジュールに適した材料及びその耐久信頼性の相対的な評価は、個々のメーカーにとって困難な状況にあります。本プロジェクトは、大学及び産技センターで評価した結果を各メーカーにフィードバックすることにより、材料及び接合技術の開発を促進することを目的に推進されています。具体的には、評価用プラットホームになりうる大電流パワーモジュールを作製して、これを用いた材料及び接続技術を評価して、技術開発にタイムリーに活かすことです。先ず、評価用大電流パワーモジュールのプロトタイプ作製を目指すことを目的に、2011年4月にスタートしました。予想を超える多くの会社に参加戴き、プラットホーム作製と有効性を確認でき、2年目にI期目の成果として報告をしました。さらに、SiCデバイスパワーモジュールに適用しうる高耐熱封止材、接合技術そして高熱伝導性接着材料の開発に結び付けるべく、2013年4月よりSiC等大電流パワーモジュール用実装材料開発・評価支援PJ(KAMOME-PJ II)をスタートしました。1cm角の大面積SiCダイオードを用いて、材料の熱的な限界に迫る評価を実施して、各社開発段階の封止材、接合材、熱伝導性接着シート材の実力を把握することができました。2015年4月より開始したKAMOME-IIIは、標準化に参考となる評価基準を明確にして、これをもとに各社開発中の材料の実力確認とステップアップを目的とするものです。KAMOME-PJとしての6年目に入り、各技術に特化した簡易パッケージと簡易モジュールを用いて実質的な信頼性評価を実施中です。佳境を迎えた本プロジェクトを乗り切るためになお一層のご支援とご協力を宜しくお願い致します。
「パワエレ研究会からKAMOME-PJへ」
YJC顧問
宮代 文夫
◆2007/4の国プロ応募:研究会の紹介に入る前にYNUから「地域再生人材創出拠点の形成」というタイトルで2007~2011実施予定(総額2.5億円)というタイトルで国プロに応募した。羽深先生の力作で、この提案中には高密度実装技術、実施体制、構想など後のK-PJまでを俯瞰した内容がすべて盛り込まれていたといっても過言ではない。惜しくも採択とはならなかったが、2006年から始まっていたJisso Schoolを含め、YNU,YJCのエレクトロニクス実装に対する考え方をまとめるいい機会であった。
◆パワエレ実装研究会の発足:この研究会はKAST-YNU-産技Cによる神奈川産学公PJとして発足した「次世代パワーエレクトロニクス」PJからの要請により「パワーエレクトロニクス実装研究会」として誕生した。そして、2008年6/13(金)、横浜・神奈川産業振興センター(関内)で第1回公開フォーラムを行った。これがスタートである。発足時の会員は50名、翌2009年の名簿を見ると現在のKAMOME -PJの中核をなす有力企業が名を連ねており、「研究会からPJへ」がうまく連動する予兆が見られる。
◆実装工学テキスト検討会の発足と挫折:白鳥先生が召集し、羽深先生、本多、高木、小泉、合志、鷹野の各氏と宮代が出席したキックオフ・ミーティングが2008-5/1に行われた。これに東芝の八甫谷氏が加わった。本格的テキストを作るべく討議をし、基礎は大学が受け持ち、応用は企業OBが分担することになった。まず、実装工学体系を作ることから始めようということとなった。このときのまとめを下図に示す(部分)。(中略)。結局この検討会はほぼ月1回のペースで行われ、4ヵ月後の9/5に下記のような目次ができた。
- 実装工学テキスト検討会(2009/5)まとめ-部分- (挿入図は割愛)
1. 実装工学の概念(実装とは何か?)
2. 実例に見る実装設計の流れ(PC設計を例に)
3. 実装工学の基礎:①実装設計、②実装加工(膜形成、微小接続、機械加工、化学加工)、③実装材料(基板材料、配線材料、接続材料、絶縁保護材料、放熱・シールド・筐体材料)、
4. 実装技術の基礎:①「PWB、②搭載デバイスと部品、③パッケージとモジュール、④ボード実装プロセス、⑤実装プロセスと装置
5. 実装評価と信頼性:①工程検査の原理と技術、②信頼性設計、③実装評価と故障解析、④信頼性評価試験、⑤シミュレーション技術と寿命予測
目次ができたところで、執筆にかかる前に出版界の反応を見ようということになった。出版の方針としては「5年もつものを200ページ位でわかりやすくまとめ、新しい事項やトピックスは電子ファイルで更新していけばよい」などと盛り上がっていた。11/7に日刊工業新聞社のS氏に来ていただき、」この構想を披露した。ところがS氏は「この種のものはどんなにやさしく書いてもらっても商売としては成り立たない」とあっさり断られた。かくして「実装工学テキスト構想」は6ヶ月の夢に終わった。嗚呼。
◆パワエレ実装研究会の活動:2008/6月に発足したこの研究会のその後の活動を追って見よう。
☆2008-12/22に教文ホールで「第2回公開フォーラム」を開催:カーエレの実装課題と次世代パワエレ実装について日産・忍足氏と冨永氏、ECSCRM2008報告(宮代)
☆2009/3 電気学会全国大会シンポジウム(北海道)で「半導体電力変換装置のパッケージング
技術(S20)」が集中討議された。インバータ・コンバータの実装ということで、あの電気学会が?と驚かされた。ただしSiCはほんのちょっぴり触れられただけ。豊田中研の山田氏(現大同大教授)も参加。
☆2009/7 「第3回非公開フォーラム」でアンケートをとった:SiC実装に関して、①SiC chip接合問題、②Tj=200~300℃のインパクト、③有機封止材の課題、④放熱と冷却構造、⑤セラミック材の課題などが提起された。これはPJの発足課題として有用な課題で、実は今でもまだ同じ問題で苦労しており、解決していない。
☆2009-/7 PE実装研究会内に調査WG発足:
・WG-A ; SiCはSiに比べ本当に優れた材料か?
・WG-B : SiCパワーデバイスの高Tj化はどこまで検討すべきか?(200℃、250℃、300℃に分けてケーススタデイを行う)
・WG-C: SiCパワーデバイスの放熱および冷却構造
☆2010/4 サポイン提案(SiCモジュール、MMTとPI技研参加)したが、残念ながら不採択
☆2010-9/7 「第4回非公開フォーラム」開催:開催
趣旨(右図参照)として「SiCを物性面から勉強し直
すと共に、WGで調査してきた実装課題の深耕を進め、
さらにSiCモジュール実装についても試作と検証の
段階に入るべく討議する」、というもので、これは
PJ発足の決意を暗に表明したものといえる。
1. 講演「物性面から見たパワエレ用SiC材料」 (羽深)
2. 提案「パワーデバイスの三次元実装のプロトタイプ試作提案」(冨永)
3. 講演「産技Cにおける実装試作評価技術について」(篠原)
4. 報告「ICSCRM2009の情報に基づくWG調査の深耕」(宮代)
5. 全体討議「研究会の今後のあり方」 (モデレータ:宮代)
このフォーラムでKAMOME-PJのスタートの実感を掴んだといえる。⇒KAMOME-PJ発足2011/4
◆大学からの調査依頼に協力:
☆2010-2/26:H21YNU共同研究推進C委託事業・調査報告「エレクトロニクス実装技術教育の問題と解決策に関する調査」
【Executive Summaryより】
・YJC創立3年半を経過し、スクールとパワエレ実装研究会を中心に活動中。ここで産業界からの期待と大学への要望をまとめた。公的資金も獲得しながら5つのJisso Schoolコース(入門、基礎、深堀、実習)を開発・実行した。
・この間Tsunami様(社長:呉 雅俊氏)からの資金的支援が誠にありがたく、人件費、事務所運営費に充てさせていただいた。深く感謝の意を表したい。
・より充実した事業構築には、①現場実習対応可能な「実装工房」と、②工学体系として整備された教材「実装工学テキスト」の完成が強く望まれる。
【報告本文目次】
☆これまでのYJCセミナーとJisso Schoolの実績(鷹野)
☆公的PJ応募の軌跡(合志)
☆「実装工学テキスト」構築の試み(宮代)
☆YNUにおける実装工学教育(羽深、羽路、高橋)
☆産業界からの期待
☆企業OBの本音(下図参照:参照図は割愛)
今振り返ると、この時期(2006~2010年)は今のYJCの根幹を作ろうとして企業OBを中心に最も情熱を注ぎ込んで種々の構築を試みた期間であり、若々しさ? を感ずる。さて、20周年に向かって後輩のため、老躯に鞭打たねばなるまい。